子供をサッカークラブに入れたら、PMの解像度が少し上がった

プロダクトマネジメント

週末になると、子どものサッカーの練習に向けてバタバタと準備をする。

バッグの中身をチェックし、飲み物を入れ、時間を気にしながら練習会場まで送っていく。

その合間には、LINEに流れてくるチーム連絡を確認し、変更があれば再調整。

こうした「サッカークラブに関わる保護者の体験」は、実際に子供がサッカークラブに通い始めてから気づく体験ですが、これ、プロダクトマネジメントの世界と驚くほど構造が似ている。と感じました。

体験会の印象が入会を左右することも、連絡の煩雑さがストレスになることも、子どもの成長が最大の喜びになることも——

プロダクトとサッカークラブ。全然違う用に見えるこの二つの体験ですが、ユーザー体験とういう観点で見ると、オンボーディング、フリクション、アクティベーション、リテンションに対応していました。

この記事では、子どものサッカークラブの保護者として感じた体験を、プロダクトマネジメントの視点で紐解いてみることで、プロダクトマネジメントのヒントを探ってみたいと思います。

スポンサーリンク

保護者体験は、そのまま「カスタマージャーニー」だった

サッカークラブに関わる保護者としての体験を改めて整理してみると、「あれ、これ完全にプロダクトのカスタマージャーニーでは?」と思うくらい、流れがきれいに対応しています。

たとえば、子どもが初めてクラブの体験会に参加したとき。

保護者はクラブの雰囲気やコーチの様子、子どもの反応を見て、「ここなら通ってもいいかも」と感じるわけです。

これは、まさにプロダクトのオンボーディングそのもの。

その後も、練習に慣れていく中で“楽しそうにしている瞬間”があれば、保護者としては「入ってよかった」と価値を実感します。

逆に、連絡がぐちゃっとしていたり、負担が大きかったりすると、「あれ…ちょっとしんどいかも」と不安が出てきます。

これらは、プロダクトに置き換えると:

– オンボーディング(体験会)
– アクティベーション(楽しさ・成長の実感)
– リテンション(続けたい理由)

– サポート体験(連絡・コーチとのやり取り)

– コミュニティ(保護者との関係性)

といった形になります。

つまり保護者体験って、プロダクトの利用開始から継続、そして離脱までの流れがそのままリアルな生活の中に現れている世界でした。

普段PMとして「ユーザーはどんな体験をしているのか?」と考えていますし、他のプロダクトのことはよく観察していますが、自分の日常生活そのものが、まさにカスタマージャーニーになっているというのは、改めて面白い発見でした。

最初の5分で体験がほぼ決まる

サッカークラブへの入会前に「体験会」がありました。

子どもがクラブの練習に混ざって、普段の雰囲気を感じられるあれです。

この体験会での最初の5分の印象が、クラブ全体の印象につながっているのです。

練習に混じってすぐに、子どもが楽しそうに走り回っていたり、コーチが優しく声をかけてくれていたり、その場の空気が明るかったりすると、保護者はすぐに安心します。

逆に、練習に混じっても一人練習についていけていなかったり、コーチとのコミュニケーションがぎこちなかったりすると、「ここ大丈夫かな…?」という不安が一気に増えます。

これ、プロダクトでいう初回UX(First Time Experience)にそっくり。

– 最初の利用で「できた!」という感覚があるか

– UIが直感的でわかりやすいか

– 迷わずに目的を達成することができるか

ユーザーがプロダクトを使い続けるかどうかは、最初の数分でほぼ決まる、と言われるのも納得です。

サッカークラブの体験会でも、最初に「ここなら任せても大丈夫」という安心感が得られれば、ほとんどの保護者は前向きになります。

もちろん子供の反応・やる気も大事ですが、最後にお金を払って入会を決めるのは保護者なので、保護者が最初にどう感じるかも非常に重要になります。

つまり、“最初の出会い”で不安を消せるかどうかが、続けてもらえるかの分かれ道。

これはPMとしてプロダクトを作るときにも、常に意識したい視点だな、と改めて感じました。

保護者が本当に求めているのは“機能”ではなく“感情”?

なんでサッカークラブに入ったんですか?と周りの保護者に聞いたら、

「運動してほしくて」

「協調性を身につけてほしい」

「友達から誘われたから」

こんな回答が返ってきました。

しかし、よくよく会話をしてみると、本当の期待はもっと深いところにあることがわかりました。

– 子どもが楽しそうにしている姿を見ると嬉しい

– 仲間と関わる中で自信を持っていくのが頼もしい

– 友達と一緒に成長していくのが安心

つまり、保護者が求めているのは「サッカーの技術向上」だけではなく、そこから得られる“感情の変化”や“生活の快適さ”なのかなと思いました。

もちろんサッカーが上手くなってほしいという気持ちもありますが、特に小学生くらいの年齢だと、保護者にとっては“感情的な満足”のほうが大きいんです。

これって、まさにJTBD(Jobs To Be Done)そのもの。

プロダクトでもユーザーはよくこう言います。

「便利だから使いたい」

「効率化したい」

でも実際には、

– 毎日の生活に余裕がほしい

– 安心感が欲しい

– ケンカの種を減らしたい

といった“感情のジョブ”にプロダクトは応えていることが多い。

サッカークラブの保護者体験を通して、「人が何かを選ぶとき、本当に求めているのは“感情”なんだ」ということを改めて実感しました。

そしてPMとしても、**機能ではなく、感情を満たす体験を作る**という視点は欠かせないと実感します。

離脱は“価値不足”より“しんどさ”から起きる

子どもはすごく楽しんでいるのに「少しお休みしようか…」という家庭がありました。

理由を聞いてみると、意外にも“サッカーそのもの”じゃなかったんです。

具体的にはこんな感じ。

– 送り迎えの時間がどうしても厳しい

– 練習場所が遠くて負担が大きい

– 保護者の役割分担が重たい

どれも「価値がないからやめる」ではなく、“しんどい”が積み重なった結果の離脱なんですよね。

これ、プロダクトでも完全に同じ構造がありました。

ユーザーが離脱する理由は、機能が悪いとか、価値がないから、ではなく、

– 操作がわかりにくい

– 手順が多い

– 通知が多すぎる

– 毎回ちょっとイラッとする

みたいな、“小さなストレス”の積み重ねであることがほとんど。

特にリプレイスされる時は、「まあ、別に悪くはないけど、なんか面倒くさいし…」という感情的な負が離脱の大きな要因になっていることが多ように感じます。

つまり、価値を高めるだけでは継続されない。ユーザーの負担やストレスを減らすことも、同じくらい重要なのです。

サッカークラブの保護者体験を通して、「離脱の原因は“価値の不足ではなく、フリクションの多さ”」というPMとしての学びを、日常の中でひしひしと感じました。

子どもの成長は最強のリテンションドライバー

サッカークラブに通っていて、保護者がいちばん嬉しい瞬間ってなんでしょう?

初めて試合に出られたとき。

苦手だったドリブルが少し上達したとき。

友達同士のコミュニケーションが増えたとき。

思い切ってシュートを打てたとき。

帰ってきた子どもが「今日めっちゃ楽しかった!」と言ったとき。

こういう“成長が見える瞬間”って、どんな送迎の大変さも、連絡の手間も、一気に報われるんですよね。

そして不思議なことに、そういう瞬間があるだけで、「これからも続けさせたいな」と自然に思えてしまう。

これ、プロダクトにおけるNorth Star Metric(ユーザーの成功を示す指標)とまったく同じです。

ユーザーがプロダクトを使っていて、

– 作業が早くできた

– やりたいことが達成できた

– 操作が“わかる”ようになった

– ちょっと誇らしい気持ちになった

– 使うことで“楽しい“ことが増えた

という成功体験があるほど、継続率がどんどん上がります。

言い換えると、人は「できるようになった実感」でサービスを好きになる。

サッカークラブでもプロダクトでも、結局のところユーザー(=子ども)が成長し、それを親(=ユーザーのステークホルダー)が喜べると、体験全体の満足度や継続意欲が一気に上がる。

シンプルだけど、めちゃくちゃ本質的な話です。

子どもの成長って、本当に最強のリテンションドライバーなんだな、とあらためて感じる場面が多くありました。

日常の中に、PMのヒントはたくさん転がっている

サッカークラブの保護者として過ごしてきた日々を振り返ると、そこには驚くほどプロダクトマネジメントのエッセンスが詰まっていました。

– 最初の体験で安心をつくるオンボーディング

– 人が本当に求めているのは“感情”というJTBD

– 離脱は価値不足よりも“しんどさ”から起きるというフリクション

– 成長が最大のリテンションになるというNorth Star

どれもPMとして日々向き合っているテーマなのに、サッカークラブという全く別の文脈で、改めて「そうだよなぁ」と腑に落ちる瞬間が多くありました。

結局のところ、プロダクトの体験もサッカークラブの体験も、**“人がどう感じて、どう動くか”** に向き合うという本質は同じなんですよね。

子育てや日常の中で起きる何気ない出来事が、実はすごく本質的な学びにつながっていたりする。

サッカークラブに通い始めて、そんなことに気づくきっかけになりました。